女探偵は砕けない。ミステリー小説「葉村晶シリーズ」レビュー

日本のミステリー小説に登場する女性探偵としては、かなり息の長い部類に入るでしょう。

若竹七海さんの描く「葉村晶」(はむら・あきら)シリーズです。

人の心の中に潜む「悪意」の描写に特徴のある、若竹七海小説。その作品の読後感には、どれもクセになるモヤモヤ感があります。

そんな若竹七海さんのエッセンスが存分に詰まっているのが、女探偵・葉村晶シリーズ。短編も長編も、ミステリー感、そして味のあるモヤモヤ感を与えてくれます。

そんな葉村晶が活躍するミステリーも、2018年刊行の「錆びた滑車」でついにシリーズ7作目。その軌跡をまとめてみました。

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探偵・葉村晶とは?

単行本紹介の前に、女探偵・葉村晶について簡単に。

初登場時は20代なかばのフリーター。後に長谷川探偵調査所に入所し、本格的な探偵の道を歩み始めます。

20代の終わりから30代はフリーの調査員となり、40代ではミステリー専門書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」のアルバイトに。

その後、店長・富山の計らい(謀らい?)により、「MURDER BEAR BOOKSHOP」の2階を借り受け、「白熊探偵社」を開業。

以後、古書店のバイトと探偵業、二足のわらじを履くことになる…というのが、葉村晶の近況。

そんなユニークな経歴を持つ彼女。容姿は美人でも不美人でもなく(本人談)、男っ気もほとんどない。

しかし調査員としてはとても優秀。クールな性格と行動力が魅力。そして何より、トラブルに巻き込まれやすい不幸な体質が、見ていて飽きません。

なお探偵・葉村晶シリーズ、登場人物にはゆるやかな繋がりがありますが、基本的にはどの単行本から読んでも楽しめると思います。

葉村晶シリーズ紹介

それでは以下、若竹七海さんの葉村晶シリーズ単行本の紹介です。

プレゼント

プレゼント (中公文庫)著者:若竹 七海出版社:中央公論社発行日:1998-12-01
  • 海の底
  • 冬物語(※)
  • ロバの穴
  • 殺人工作(※)
  • あんたのせいよ
  • プレゼント(※)
  • 再生
  • トラブル・メイカー

以上、計8編収録。葉村晶は登場時はフリーター、のちに長谷川探偵調査所所属になります。

なお本書は葉村晶に加え、もう一人の主役・小林警部補が登場。二人が交互に活躍する形式です。※印の付いている話に葉村晶は登場しません。

葉村晶のフレッシュな?活躍が楽しめる本作。残念ながら電子化されていません。

本書を読んでいなくても、以降シリーズを読むのに影響はありませんが、気になる方は紙書籍をどうぞ。

依頼人は死んだ

依頼人は死んだ (文春文庫)著者:若竹七海出版社:文藝春秋発行日:2003-06-10
  • 濃紺の悪魔(冬の物語)
  • 詩人の死(春の物語)
  • たぶん、暑かったから(夏の物語)
  • 鉄格子の女(秋の物語)
  • アヴェ・マリア(ふたたび冬の物語)
  • 依頼人は死んだ(ふたたび春の物語)
  • 女探偵の夏休み(ふたたび夏の物語)
  • わたしの調査に手加減はない(ふたたび秋の物語)
  • 都合のいい地獄(三度目の冬の物語)

以上9編の連作短編を収録。

長谷川探偵調査書を退職後、同所のフリー調査員として活動する葉村晶。彼女が関わる、ブラックな事件の数々が描かれます。

個々の短編は独立しながらも、一冊を通してゆるやかな繋がりもある連作集。葉村晶の友人・相葉みのりが主体となる話もあり。

悪いうさぎ

悪いうさぎ (文春文庫)著者:若竹七海出版社:文藝春秋発行日:2004-07-10

葉村晶シリーズ、初の長編。行方不明になった女子高生たちの行方を追う晶。しかし真相を追ううちに、彼女の身に危機が…。

文庫版で450ページ超の大作。私はこの作品で葉村晶を知り、以後どっぷりとハマりました。

「依頼人は死んだ」でウォーミング・アップを終えたら、本作で葉村晶の冒険をあますところなく楽しみましょう。ちなみに葉村晶は三十代突入です。

暗い越流

暗い越流 (光文社文庫)著者:若竹 七海出版社:光文社発行日:2016-10-20
  • 蠅男
  • 暗い越流
  • 幸せの家
  • 狂酔
  • 道楽者の金庫

以上の計5編を収録した短編集。本作には葉村晶もの以外も収録されています。

彼女が登場するのは「蠅男」「道楽者の金庫」の2編。なお「暗い越流」は、第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞作品です。

葉村晶登場の2編は、シリーズらしさのあふれた納得の出来。葉村晶の磨きがかかった不運さに同情しつつも、終盤でちゃんと若竹七海らしい落ちが。

特に「道楽者の金庫」では、「さよならの手口」につながるミッシングリンク、葉村晶が「MURDER BEAR BOOKSHOP」で働くきっかけが描かれ、ファン必読。

他の3作品も若竹氏らしい作風で、毒っ気が実にいい味を出しています。特に「狂酔」が素晴らしい。

何やらある場所で、人々を前にひとり語りをする男。男の語る異様な内容と次第に明らかになるシチュエーション、そして驚愕のラスト。インパクトのある話で大満足。

さよならの手口

さよならの手口 (文春文庫)著者:若竹七海出版社:文藝春秋発行日:2014-11-10

「道楽者の金庫」に引き続き、吉祥寺のミステリ専門書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」でバイト中(探偵は開店休業状態)の葉村晶。古書引取の際に発見した白骨死体を端に、謎に関わってゆきます。

過去作に比べると、だいぶユーモラスな表現が増えた気がします。主人公も歳を取って丸くなった?

「このミス」2016年の第4位作品。なお単行本的には、「暗い越流」の方が発表が先です。

静かな炎天

静かな炎天 (文春文庫)著者:若竹七海出版社:文藝春秋発行日:2016-08-04
  • 青い影 七月
  • 静かな炎天 八月
  • 熱海ブライトン・ロック 九月
  • 副島さんは言っている 十月
  • 血の凶作 十一月
  • 聖夜プラス1 十二月

の全6作に加え、「さよならの手口」に続く「富山店長のミステリ紹介ふたたび」を収録した短編集。

感想は…キレッキレですね!実におもしろい。

初登場時二十代だった葉村晶も、いよいよ本格的に四十代。四十肩に苦しむハードボイルド探偵となりました。

葉村晶が偶然遭遇した大事故に端を発する「青い影 七月」。

ひっきりなしの依頼を順調にこなす女探偵だがその裏で起こっていたのは…「静かな炎天 八月」。

など、葉村晶の半年間の活躍が描かれます。

過去作「依頼人は死んだ」と比べると、葉村晶自身含め、全体の雰囲気がだいぶ丸くなった印象。

しかし各話、ラストの衝撃はそれ以上!ユーモラスさがアップした分、若竹氏描く「悪意」がより際立っている、という感じ。

錆びた滑車

錆びた滑車 葉村晶シリーズ (文春文庫)著者:若竹 七海出版社:文藝春秋発行日:2018-08-03

2018年刊行の文庫オリジナル長編「錆びた滑車」。ミステリ専門書店のバイトと調査員を、相も変わらずかけもちする葉村晶。

住んでいるシェアハウスを退去する予定だが、引っ越し先は見つからず。尾行中の事故から、対象に関係のある女性・その孫である青年と同居することに。

事故で一部の記憶を失った青年に依頼され、記憶に関する調査を依頼される葉村晶。しかしきな臭い話の渦の中へ…という話。

事故・火事・そして知人の揉め事に巻き込まれる彼女。不運もここに極まれり(笑)、といった感じ。無理難題を押し付ける古書店主・富田のすっとぼけぶりも定番となってきて、シリーズものならではのおもしろさがあります。

まとめ

以上、ロングセラーを続ける女性探偵・葉村晶シリーズの紹介でした。

ミステリーの中ではハードボイルドといった位置づけになりますが、決して堅苦しくなく重すぎず。

シニカルかつユーモラスな語り口につい引き込まれ、しかし油断しているとラストでガツン!とやられる探偵小説です。

仕事はできるが不運続きの葉村晶。シリーズを重ねるにつれ、その不幸度合いにも磨きがかかってきて?目が離せません。

シリーズものですが、どの話から読んでも楽しめる作品。ぜひ彼女の活躍を楽しんでください。

●耳で聴くビジネス・リラックス・エンターテインメント。

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