日本推理作家協会・著、「ミステリーの書き方」を読みました。2010年に発売されたハードカバーの文庫版です。
この書籍を買った動機はミステリーが書きたかったから…という畏れ多い動機ではなく、プロのミステリー作家がどのような方法でミステリーを書き上げているか、といった「ミステリー小説の舞台裏」に興味があったためです。
「ミステリーの書き方」の主な内容
本書に登場の作家は下記の通り。
赤川次郎・東直己・阿刀田高・我孫子武丸・綾辻行人・有栖川有栖・五十嵐貴久・伊坂幸太郎・石田衣良・岩井志麻子・逢坂剛・大沢在昌・乙一・折原一・恩田陸・垣根涼介・香納諒一・神崎京介・貴志祐介・北方謙三・北村薫・北森鴻・黒川博行・小池真理子・今野敏・柴田よしき・朱川湊人・真保裕一・柄刀一・天童荒太・二階堂黎人・楡周平・野沢尚・法月綸太郎・馳星周・花村萬月・東野圭吾・福井晴敏・船戸与一・宮部みゆき・森村誠一・山田正紀・横山秀夫
本書は以上の作家さんの寄稿文、またはインタビューなどにより構成。
その内容は
- ミステリー一冊ができるまでの道程
- アイデアの探し方
- プロット(ストーリーの要約)の作り方
- 小説をおもしろくするコツ
など、多岐に渡ります。
その他2003年に、日本推理作家協会の会員137名に取ったアンケートの結果が掲載されています。
文章のプロの考え方・テクニック
本書、全体的におもしろい(小並感)のですが、興味をひかれた箇所を少しご紹介。
今までないアイデアを探す時、(中略)壁を自分の中に作ってはいけない。(中略)どういうことでもいいから、まだ誰もやっていないものを拾い上げていくことが大事だと思いますね。
東野圭吾「オリジナリティがあるアイデアの探し方」より
東野圭吾氏のアイデア・発想法に関する話。先入観を捨てて、アイデアを磨く。
せっかく山のようにあるテキストを使わないというのも、これは資源のムダといいますか、(中略)優れた映画、コミックなどを何度でも見返し読み返し、そこから何かを学び取る、というのは(中略)決して「パクリ」というような次元の低いものではないと思います。
五十嵐貴久「クラッシクに学ぶ」より
ここで五十嵐氏のいう「クラシック」とは、音楽のことではなく、過去に存在した表現物のこと。
困った時には、クラシックのアイデア・表現を参考にするのも一つのやり方である、という、手法の話です。
「書く」ということは、じつは「見る」ということなんです。書くというのは、ただその見たことを写していく作業です。だから、見るということがすなわち文章力なんですね。
北村薫「語り手の設定」より
北村氏から、小説を書こうという読者へのアドバイス。人間を見る、人間関係を見る、という観察眼から、書きたいテーマが浮かんでくるはず、とのこと。深い。
…とまあ、挙げていけばキリがありませんが、やはり文章のプロとしてのミステリー作家の手法や考え方、とても参考になります。
逆に本書を読んだあと、小説の作り方から各作家さんの完成品を見返してみる、というのも、また新しい発見がありそう。
ミステリーは基本的人権の保障される民主主義社会において発達する。(中略)つまり、ミステリーは人権保障の指数とも言える。
森村誠一「ミステリーと純文学の違い」より
こちらは手法ではありませんが、ハッとした一文。
人権の保障されていない社会であれば、問答無用で犯人を決めつけることができるわけですから、そもそもミステリーが成立しない。
またミステリーのあり方から、属する社会が見えてくる。
そして一番おもしろかったのは、北方謙三氏の「文体について」。
インタビュー形式の文章(インタビュアーは池上冬樹氏)なのですが、
・形容詞は読者の頭の中にあり、それを引っ張り出すような文章を書けばいい
・体言止めはやるべきじゃない。安直過ぎる。
・擬音は基本的に使わない。擬音を使うときはカタカナでなく平仮名を使う。
北方謙三「文体について」より
といった、経験に裏打ちされた文章のこだわり、とてもインパクトがありました。
そして本文を読むに、北方氏、文章表現をものすごく研究されている。この「文体について」からは、プロの凄さをまざまざと見せつけられました。
ネタバレもあるので注意
この「ミステリーの書き方」、1点だけ難が。
各作者の著作や過去の名作ミステリーについて、重大なネタバレが記述されていることがあります。
書籍の内容からいたし方のないことなんですけどね(笑)。
「どうしてもこの作品の結末は知りたくない!」という場合は、目をつぶってページをめくってください。
ミステリー以外の文章にも役立つ、かも
以上、日本推理作家協会・著「ミステリーの書き方」を読んだ、というお話でした。
プロの小説家の文章技法や発想法・考え方などが、実に詳細に記載されていて、とても興味深く読めました。
ミステリー好きの方、文筆業を志す方にオススメしたい一冊。
ブログの記事作成に役立ちそうなテクニックも多々あるので、私もスキをみてまた読み返してみたいと思います。
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