野沢尚氏の小説「リミット」を読了しました。
元々は1998年に単行本化された作品(文庫化は2001年)で、ドラマ化もされました(私はドラマ未見)。
感想としては「非常におもしろかった!」ですが、人に勧めるかというと、ちょっと躊躇します(理由は後述)。
あらすじと感想
警視庁捜査一課の有働公子は、7歳の息子と二人暮らし。とある幼児誘拐事件にて犯人より身代金の要求があり、母親として電話対応を担当する公子。
しかし犯人側は同時に公子の息子を誘拐。身代金の運搬役に彼女を指名し、警察の目を欺くことを秘密裏に要求。
かくして息子の命を救うため、母のたった一人の戦いが始まる…。
…というストーリー。
公子の孤独な戦いと、息子の命のタイムリミットに、手に汗握るエンターテイメント。そして何より「母親の強さ」を強く感じました。
謎解きをする話ではありませんが、進行に従って徐々に、読者の予想しない全貌があきらかになっていくというミステリー要素も。
また人身売買という社会問題にも切り込み、ただのエンタメ以上の作品になっています。
この物語のもう一つの魅力は犯人グループ。決して共感はしないけど、悪には悪の理屈がある(と、野沢さんは描いているように思える)。
悪逆非道な犯人たちは、読者としては憎んでも憎みきれない存在なのですが、どことなく輝きを持っている、ところもあるような(いや、決して共感はしないですよ)。
そして物語のキーワードは「母」。これは「母の物語」です。
主人公・公子が母だからというだけの理由ではなく、物語全般から母の強さ、優しさ、そして葛藤を強く感じます。
オススメしたいけど…
というわけでお母さんに読んで欲しい小説…と書きたいところですが、実はあまりオススメしません。
犯罪の手口が生々しく、ショッキングな部分もあるからです。
私も物語を楽しみつつも、心に暗い澱のようなものが溜まるのを感じました。耐性のある方には是非読んでいただきたい。
野沢尚さんの作品は本作含め、「深紅」「魔笛」を読みました。どれも迫力・読み応えのある小説でした。
しかし野沢氏は2004年に44歳の若さで急逝されています。それから10年。今も筆を執られていたら、もっともっと、良い小説を書かれていたことでしょう。もう氏の新作を読めないと思うと、非常に残念です。
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