【感想】桜木紫乃「誰もいない夜に咲く」 | ネットタイガー

【感想】桜木紫乃「誰もいない夜に咲く」

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「ホテルローヤル」があまりにも自分の中でヒットだったので、勢いで桜木紫乃さんの別作品「誰もいない夜に咲く」をKindle版にて購入・読了しました。台風で外出しない一日、電子書籍はこういう時に便利ですね。こちらもしみじみと心に染みる、良い作品でした。

「波に咲く」「海へ」「プリズム」「フィナーレ」「風の女」「絹日和」「根無草」の7編を収録。北海道にひっそり生きる男と女を、情感ゆたかに書き上げた短編集です。なお本作は角川書店の単行本「恋肌」を改題の上、大幅に加筆・修正して「風の女」を加えたものとのことです。

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感想

30~40代の主人公が多いからでしょうか、自分と年齢が近しいこともあって、どの話も主人公の男女の区別なく物語にすんなりと入っていけました。ごくごく普通の人間である登場人物の人生を、静かな文体で、しかし確かに生活を感じさせる文で描き上げる。「ホテルローヤル」の時にも感じましたが、桜木氏は本当に描写が自然で読みやすい。しかし時折ハッとする表現があるので気を抜けません。

ほんのわずかな間をあけて、樹が怒ったように言った。
「後悔でも傷でも、いいんです。色鮮やかな記憶がないと、自分が死んだことにも気づかない一生になってしまう」

「風の女」より。書道を生業とする美津江の下に、姉の遺骨を持って現れた著名な書道家・樹。二人の瞬間の交流を描いた物語。その中で発せられた樹の言葉に、ちょっと衝撃を受けました。「自分の『色鮮やかな記憶』って何だろう?」と、ちょっと考えさせられた一文。物語全体も、奇妙な出会いから縁を持った男女の心の機微がとつとつと描かれ、心に残ります。

その他お気に入りは「絹日和」。かつて着付けの師であった珠希に、息子の結婚式で新婦の着付けを請われる奈々子。息子は奈々子のかつての交際相手。とまどいを持ちつつも依頼を引き受け、仕事を通してやがて自身の再生の道を歩き出す、というあらすじ。女性たちの密やかながらも強かな生命力が感じられる良遍です。

北の大地・北海道が舞台ということもあり、どの作品にもそこはかとない寂しさが漂う。しかしそこに生きる人々の営みが情感深く描かれ、それが読むものに確かな「生」を感じさせます。ラブホテルを題材にした「ホテルローヤル」より艶やかな一面も。またいつか読み返してみたいと思わせる、良い読後感でした。

気になった一文

感想とはちょっと違うのですが、ビジネスの教訓として心に残った一文がありました。そちらを引用してエントリーの最後とします。

「違う。叶田さん、違う。商売にはあとあとってのがる。損がなけりゃ得もないんだよ。あんたが考えてるのは、今自分が一円でも得をすることばかりだ。そういう人に商売なんぞ無理なんだよ。人より多く頭を下げて、言いたくもないお世辞も言って、嘘か誠か判らないような化け物の懐から真実だけを引っ張り上げる。それが生きた金なんだ。生きた金しか金を生まないんだよ。あんたは鼻先の匂いに騙されて、それをみんな死に金に変えてしまったんだ。自分のやったことがわかるかい」

 「根無草」より

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